全面拒否される日本製鉄のUSスチールの買収
トランプ氏が日本製鉄によるUSスチールの買収を全面的に反対することを表明。さらに、自身のSNS上では「この計画をブロックする!」、「買い手は覚悟しろ!」とかなり過激な内容とともに投稿していることからUSスチールの買収の道のりは険しくなりそうです。今回は、なぜ日本製鉄がUSスチールを買収したいのか、なぜトランプ氏に反対されるのかを中心に解説します。また、今後のストーリーに関しては次回のブログでお話しさせていただきます。
USスチールを買収したい理由
買収したい理由は日本製鉄の海外戦略が大きく関係します。鉄鋼消費国のトップ3は中国、インド、北米の順となっておりこの3国のシェアを広げることが重要になります。その中で、日本製鉄はチャイナリスクの観点から今までの中国市場の比率を下げるかわりに、北米やインドに更なる投資と成長をとる戦略をとっています。特に、北米は日本製鉄が得意とする高付加価値鋼材(特に自動車向けが得意)の需要が非常に高く、利益率も高いためドル箱市場となります。一方で、現在の米国の保護貿易により日本製鉄の製品に関税がかけられ競争力は低下しています。米国内で生産すれば関税への影響を受けず競争力と利益率を向上できます。つまり、USスチールを買収し米国で生産することは戦略の肝となります。また、既にインドでは1兆円を越える新規大規模投資を進めています。
なぜUSスチールなのか
USスチールを選んだ理由は「広い販売網と日鉄との親和性」と考えられます。USスチールはアメリカの製造の象徴として1901年の創業から米国内の各有名企業と取引している実績があります。現在、USスチールは米国での業界3~4位をふらふらしていますが、昔は圧倒的なシェア誇り、国や多くの企業に高付加価値鋼材を供給してきました。特に、車体やシャーシ、エンジン部品に使われる高付加価値の鋼材は、幅広い自動車企業への供給と販売網を保有しております。日本製鉄の得意分野は高付加価値鋼材で、特に自動車向けが強いです。そのため、同じ分野かつ、多種多様な高付加価値鋼材の販売網を持つUSスチールは日本製鉄への親和性が高く魅力的になります。また、USスチールを買収することによって、世界3位の企業へ踊りでることができます。
もちろん、買収しやすくなっていることも理由の1つです。現在USスチールの老朽化した設備や生産効率の低下、環境対応への適応不足などが要因となりコスト競争力で競合他社に遅れをとっています。経営が傾き再建が必要な状況であり比較的買収しやすい状況です。ちなみに、現在、経営難によってUSスチールは、従業員や会社を維持するためには日本製鉄の買収が必須であると考えています。そのため、USスチール側は是が非でも買収されたいと主張しています。
なぜ買収を反対されるのか
USスチールの買収反対はトランプ氏およびUFW(全米鉄鋼労働者組合)が大きく反対しています。反対理由は色々あると思いますが個人的には大きく「米国内の競合他社の反発」「圧倒的な米国でのブランド力」この2つを受けトランプ氏は反対を表明せざるおえない状況だと考えています。
米国内の競合他社の反発
国内最大級の労働組合であるUFW(全米鉄鋼労働者組合)にはUSスチールと競合関係にあるArcelorMittal、Cleveland-Cliffsが加入しています。特に、Cleveland-CliffsはUFWの幹部との関係が深いと言われています。USスチールの買収にあたって日本製鉄は新型の高効率炉への置き換えや最新設備や技術を導入し生産効率と競争力向上を宣言しています。そのため、競合他社からすれば競争力が上がったUSスチールは脅威になります。自分たちのシェアを奪われないようにUFWを通して反対を表明しています。
米国でのブランド力
1901年創業のUSスチールは米国へ常に貢献してきた実績があります。急速成長や世界大戦で勝利するためにも鉄鋼の供給で大きく米国に貢献してきました。また、米国の象徴的な建物もUS スチールが多く携わっています。このことから「国家のために貢献する企業」としてのイメージが植え付けられえいます。また、US スチールは世界初の10億ドル企業となったその巨大さが「アメリカの力」を象徴していました。単なる企業の枠を超え、米国製造業の象徴としてとして捉えられているため、その象徴が米国から離れること、ましてや買収されるとなると国民感情として拒否反応が示されています。
トランプ氏の反対
トランプ氏の政権を長期化し影響力を強めるためには労働組合や国民の支持が必要不可欠です。特に、労働組合の票を得て次期大統領に選出されているため、労働組合の意向を蔑ろにすることは自身の政治への影響力を低下させることを意味します。同様に国民の多くが米国の象徴を失うことに反対を示しているのであればトランプ氏も反対しなければなりません。以上のこともあり、トランプ氏は強い反対表明をしていると考えられます。
今回は「なぜUSスチールを買収したいのか」、「なぜ反対されるのか」をメインにお話ししました。次回は上記内容をふまえて今後、どのようなストーリーに転んでいくかを考察していきたいとおもいます。
ではでは、、